大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)14976号 判決

原告

斉藤麻衣

被告

西村幸子

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金五四万五四六七円及びこれに対する昭和六一年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告に対し金一九二万五七四〇円及びこれに対する昭和六一年六月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六一年六月一日午後六時ころ

(二) 場所 東京都豊島区東池袋五丁目四二番三号先道路

(三) 加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告ロツチヤーホルヘ(以下「被告ロツチヤー」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 事故の態様 前記事故現場を横断歩行中の原告に被告車が衝突(以下、「本件事故」という。)

2  責任原因

被告西村幸子(以下、「被告幸子」という。)は被告車の保有者であるから自賠法三条により、被告ロツチヤーは速度違反、前方注視義務違反等の過失により本件事故を起こしたものであるから民法七〇九条により、それぞれ原告の損害を賠償する責任がある。

3  受傷、治療経過

原告は、本件事故により左大腿骨骨折の傷害を負い、その治療のため、昭和六一年六月一日から同年八月一〇日まで(七一日間)帝京大学医学部付属病院に入院し、その後現在に至るまで通院しており、退院から同年八月末月まで機能訓練を要した。

4  損害

(一) 入院治療費 一〇五万六三八四円

(二) 通院治療費 九一一〇円

(三) 入院付添費 二万五九〇〇円

(一月三七〇〇円の七日分)

(四) 通院付添費 一二万八〇〇〇円

(一日二〇〇〇円の六四日分)

(五) 入院時交通費 一万六四五〇円

(六) 入院雑費 七万一〇〇〇円

(一日一〇〇〇円の七一日分)

(七) 通院交通費 三万三二八〇円

(一回五二〇円の六四回分)

(八) リハビリ付添費 四万二〇〇〇円

(一回二〇〇〇円の二一回分)

(九) 通学付添費 一〇万〇〇〇〇円

(一日二〇〇〇円の五〇日分)

(一〇) 慰藉料 一三〇万〇〇〇〇円

(一一) 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

(一二) てん補額 一〇五万六三八四円

よつて、原告は、被告らに対し、各自、金一九二万五七四〇円及びこれに対する事故発生の日である昭和六一年六月一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告幸子が被告車の保有者であることは認め、その余は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4は不知。

三  抗弁

1  免責

本件事故は、原告が被告車の右側反対車線に停車中のライトバンの直後から左右を見ることなく被告車の直前に飛び出してきたため起きたものであり、原告に一方的な過失があり、被告車の運転者被告ロツチヤー及び助手席にいた同車保有者被告幸子には過失はない。被告車には構造の欠陥、機能の障害もない。

2  過失相殺

仮に被告らに責任があるとしても、本件事故には原告の重大な過失があるから過失相殺をなすべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び3(受傷、治療経過)は当事者間に争いがない。

二  被告らの責任(請求原因2、抗弁1、2)について判断する。

1  被告幸子が被告車の保有者であることは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第七、第一〇及び第一二号証、本件事故現場付近の写真であることにつき当事者間に争いのない甲第八号証の一ないし八、被告幸子本人尋問の結果並びに証人米持郁夫の証言によれば、本件事故現場は中央線のある片側一車線ずつの道路であり、車道幅員は七メートル両側に歩道があること、道路両側は商店、住宅が建ち並らび交通量はやや頻繁であること、車道上から道路前方及び両側歩道の見通しは良好であること、被告ロツチヤーは被告幸子を助手席に乗せ被告車を運転し本件事故現場をサンシヤイン方面から不忍通りに向け進行中、対向車線歩道(被告らから見て右側歩道)寄りに停止していた普通貨物自動車の数メートル先に右側から走つて道路を横断してきた原告(当時七歳。小学校一年生)を約六ないし七メートル手前で発見したが、何らかの措置をとることができないまま衝突させたこと、原告は友だちの河田直(当時七歳。小学校一年生)と一緒にいたところ、河田直が本件事故現場道路を被告らから見て右側から左側に渡り左側歩道に着いたところで振り返つて原告に対し「早くおいでよ」と呼びかけたため、原告も右道路を横断開始したものであること、原告は道路を横断開始するに際し左右の安全確認をしていないこと、本件事故現場から不忍通寄り約三〇メートルの場所には横断歩道があること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  右認定事実によれば、原告が横断を開始する直前に七歳の児童が道路を横断し反対側歩道に呼びかけていたのであるから、被告ロツチヤーとしては横断者の存在を予想し前方及び歩道を注視しあるいは停止できるよう減速する義務があつたというべきである。同被告は右義務を怠り本件事故を起こしたのであるから、本件事故に関し過失があるものと認められる。

したがつて、抗弁1(免責)は認めることができない。

4  他方、原告は前記認定のとおり、左右の安全を確認することなく横断を開始したこと、停車車両直後の横断であること、現場近くに横断歩道があつたこと等の事実があり、これらは原告の過失というべきである。

以上の双方の過失を勘案すると、原告が七歳の児童であることを考慮しても、原告に三五パーセントの過失があると認めるのが相当である。

三  次に損害(請求原因4)について判断する。

1  入院治療費 一〇五万六三八四円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故による受傷のため入院し、一〇五万六三八四円を要したと認められ、右金員は本件事故による損害というべきである。

2  通院治療費等 九一一〇円

成立に争いのない甲第三号証及び第四号証の一ないし三によれば、原告は帝京大学医学部附属病院に昭和六一年八月一八日、同月二五日、同年九月二九日の三日間通院治療をし、その費用として九一一〇円(うち七〇〇〇円は診断書等作成費用)を要したことが認められ、右金員は本件事故による損害というべきである。

3  入院付添費 一八万七一八〇円

成立に争いのない甲第二号証、証人斉藤義雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和六一年六月一日から同年八月一〇日まで(七一日間)の入院中付添看護を要したこと、原告の母斉藤隆子が最初の七日間は病院に泊り込みで、その後の六四日間は通院して付添をしたこと、原告宅と入院先の帝京大学医学部付属病院との間の交通費(電車)は往復五二〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。右付添費用は、原告が損害として主張する(三)(四)、(七)の合計額である一八万七一八〇円を下回らないと認められ、右金員は本件事故による損害というべきである。

4  入通院交通費 二七九〇円

成立に争いのない甲第五号証の六、七によれば、原告は昭和六一年八月一八日の通院の際タクシーを利用して二一四〇円を要したことが認められ、その余の通院及び退院に際しては六五〇円(電車片道一三〇円の五回分)を要したと認めるのが相当である。右合計額二七九〇円は本件事故による損害というべきである。

5  入院雑費 七万一〇〇〇円

原告は入院雑費として七万一〇〇〇円(一日一〇〇〇円の七一日分)を要したと認めるのが相当であり、右は本件事故による損害というべきである。

6  リハビリ付添費、通学付添費六万一〇〇〇円

成立に争いのない甲第一五号証及び証人斉藤義雄の証言によれば、原告は昭和六一年八月一〇日の退院後医師の指示によつて同月三一日まで(二一日間)プールに通いその際原告の父又は母が付添つたこと、原告は同年九月一日から同年一〇月二〇日まで(休日を除くと四〇日間)の通学に際し歩行困難のため原告の母が付添つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右付添費用は六万一〇〇〇円(一日一〇〇〇円の六一日分)と認めるのが相当であり、右は本件事故による損害というべきである。

7  慰藉料 一〇〇万〇〇〇〇円

原告の受傷内容、入通院期間、年齢その他諸般の事情を総合すれば、慰藉料は一〇〇万円が相当と認める。

8  右1ないし7の合計額は二三八万七四六四円となるところ、前記のとおり、原告には過失があるので三五パーセントの割合で減額すると一五五万一八五一円となる。

9  てん補

弁論の全趣旨によれば、原告には一〇五万六三八四円が既に支払われていることが認められるので、右金額を減算すると、四九万五四六七円となる。

10  弁護士費用 五万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は本訴提起を余儀なくされ原告代理人に訴訟追行を委任したことが認められる。右費用のうち被告に対し賠償請求できるのは、本件の内容、認容額等を考慮すれば五万円が相当である。

11  合計額 五四万五四六七円

四  結論

よつて本訴は、金五四万五四六七円の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例